紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所(三重県津市)
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 ため池の環境を保全し、その価値を見直す

 ため池は、水稲栽培の灌漑用水を確保するために古代から築造されていた。記録としては、「日本書紀」に崇神天皇(考古学的には4世紀半ば頃)が河内の狭山池の築造を命じたものが最も古いものとされている。讃岐平野に空海ゆかりの満濃池があるが、701〜704年に築造されたと伝えられている。

 ため池が多く分布する主な府県は、兵庫(44,207)、広島、香川、山口、大阪、岡山、奈良(6,554)、新潟、和歌山(5,926)、宮城、福岡、島根、長崎、三重(3,458)、愛知などの順番になっている。また、ため池の密集地域は、播磨平野、讃岐平野、大阪平野、瀬戸内海沿岸地域、奈良盆地、伊勢平野、濃尾平野東縁、北九州などとなっている(浜島、2001)。

 Googleマップ(縮尺5km)でスクロールすると、比較的規模の大きなため池の分布が分かる。紀伊半島をスクロールすると、中勢地域にため池が多いことが分かる。

 ため池の価値としては、まず、水稲栽培で用水を供給する農業資源としての価値がある。また、谷筋に築かれているため池では、洪水防止機能がある。その他に、止水域を好む多様な水生生物の生息場所としての価値があり、地域における生物多様性保全のための貴重な環境資源でもある。この環境資源を保全することによって、水鳥や周辺雑木林等に生息する野鳥、トンボ、水生植物などを観察でき、自然に親しむことができる。また、ため池は、地域の人々に親水空間としての景観を提供し、地域のアメニティー空間の形成に役立つ。さらに、ため池は、江戸時代に作られたものが多いなど歴史的な遺産であるとともに、詩歌に詠まれたり、地域生活に結びついた文化的な価値もある。

 しかし、現在、ため池は農業資源以外にはほとんど省みられることなく、かえって、危険な場所として近づかないように、立て札が立てられているところが多いのが実状である。もちろん、ため池で遊ぶのは水難事故のもとになり危険なので、子供だけで行かないようにする必要がある。しかし、居住地域の近くに、あるいは日常的な散歩コースに、豊かな自然とすばらしい景観を楽しめるため池があればうれしいことだ。子供達にも、恐ろしい所としてだけではなく、地域の歴史ある美しい自然の1つとして、大人と一緒に親しみ、環境保全を図っていくことの重要性を教えていくことも大切ではなかろうか。

 地域の環境資源として、ため池の価値を保全し、その価値を増大させて、地域の人々に楽しまれ、更に、その土地を訪れる人々にもアメニティー空間として味わってもらうようにしていくことが大切ではなかろうか。

 このためには、ため池とその周辺の自然環境の保全と再生、水質の悪化防止と改善、生物多様性の保全、アメニティー空間として景観の保全と創出を図っていきたいものだ。そして、場所によっては危険防止柵の設置などを考えていく必要がある。また、上記のようなため池の役割を考慮して、農家と非農家の混住地域では、農家ばかりでなく、環境保全や自然観察などに関心のある人たちも自主的に参加する形で、その維持管理をしていく方向が望ましいと思われる。

 ため池をめぐる問題 

  津市のため池のうち、面積が2ha以上のため池(30箇所余り)を見て回って思ったことは次の通りである。

1.ため池の多くは、もともと水を涵養する丘陵や山、雑木林に囲まれていたが、近年、周辺の住宅開発などが進み、住宅からの排水などが流れ込むことが多くなり、水質が富栄養化してきたところが見られる。水質悪化は、農業用水としての適否だけでなく、周辺住民にとっても異臭などにより生活に支障をきたすことになるので、ため池によっては水質の管理が必要となっている。

2. ブラックバス、ブルーギル、ミシシッピーアカミミガメなどの外来生物が放てきされたため池では、在来魚などが衰退している。水田やその用排水路は、稲の作付け期間以外には干上がる状況が一般化しているため、年間を通じて水が保たれるため池は、止水域を好む水生生物の保全にとって重要な役割を果たしている。ため池での在来や外来の水生生物の生息状況を把握し、生物多様性の保全を図っていく必要がある。

3. 多くのため池が、住民などの立ち入らない場所となっていて、荒れているところもある。農家とともに周辺住民が、ため池の保全と管理に協力して、地域のアメニティー空間として、また、自然観察の場としていくことが必要だ。

 本ホームページに、ため池について少しずつ収集した情報を掲載していきたいと考えている。

 とりあえず、筆者の居住する津市と、その隣の松阪市にあるため池について、データベース化を進めているので紹介する。
 「ため池データベース」(三重県津市分)」をご覧下さい。

 (写真は、松阪市にある「ため池」)
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